<アーカイブ> 松田宏コンサルティング株式会社 
     
 

事業の理念(詳細版))
 Business Philosophy in detail

 い


 ギリシャの哲学者ヘラクレイトスは「万物は流転する」と言いました。確固不動に見える大陸も、非常にゆっくりと動いています。人間の世界は急激に変化するので混乱や問題も起きますが、その中から新しい発想が生まれ、発明や発見、改革などの創造的活動が行われます。古い価値観や固定観念を打ち破り、新しい分野を切り開くのは若い世代です。

 しかし、無から有を生じることはできません。時代を切り開いた天才は、何よりも先人の経験に学びました。ルネッサンスの天才レオナルドダビンチは、「私は経験の弟子である」と言いました。ルネッサンス(文芸復興)とは、中世ヨーロッパで失われた古代ギリシャやローマの知識がアラブ世界経由で再びもたらされたものが土台となったのです。何もないところに突然出現した訳ではありません。

 古典力学を確立したアイザックニュートンは、庭のリンゴの木から実が落ちるのを見て万有引力の法則を発見したと言われています。しかし、彼はガリレオガリレイやヨハネスケプラーなどの先人達が生涯をかけて収集した膨大な観測データと軌道理論を活用することで、新しい法則を発見することができたのです。彼は人々に対して「私は小さな存在にすぎないが、巨人の肩に乗ったので遠くまで見通せたのだ」と謙虚に答えました。

 戦略の天才といわれたナポレオンは、ギリシャやローマの戦史とともに古代中国の戦略論「孫子の兵法」も熱心に勉強しました。ちょうどその頃、中国に行っていた宣教師が中国古典のフランス語訳を出版したのです。マイクロソフトを創業したビルゲイツは、ナポレオン戦略の熱心な研究家です。2500年前の春秋戦国時代に書かれ、三国志の中心人物、魏の曹操(武帝)が注解書を書いた古典が、現代企業の戦略に役立っています。

 日本の民法は、ナポレオンがローマ法を参考に制定したフランス市民法、通称ナポレオン法典を参考にしています。アメリカ合衆国の憲法草案を起草したのは、宗主国イギリスなどヨーロッパの法体系を熟知した法律家達が中心でした。そして、アメリカ合衆国独立の理念は、後のフランス革命に大きな影響を与えました。また、現在の日本国憲法の前身である大日本帝国憲法(明治憲法)の原案は、欧米各国の憲法を研究した伊藤博文によって起草されました。

 発明王トーマスエジソンは、大変な勉強家でした。泊り込みで発明に没頭する中で、生涯に1万冊の本を読んだといいます。発明は思いつきだけではできません。短い一生の中で一人の人間ができることは限られています。創造は、先人の知識や経験を何らかの形で受け継ぎ、土台としています。新技術の開発には既存の基礎技術も必要ですし、実用化には多くの周辺技術を利用しなければなりません。

 神学者ラインホルトニーバーは、こう祈りました。「神よ、私に変えるべきものを変える勇気と、変えるべきでないものを守り通す忍耐、そして、変えるべきものと変えるべきでないものを見分ける知恵をお与えください」と。古い価値観に固執して新しいものを受け入れる勇気を持たない人、時代を経ても変わらない価値のある大切なものを捨ててしまう人がいるのは残念なことです。

 論語の為政編に、「温故知新(ふるきをたずね新しきを知る)」という言葉があります。古典や伝統の中から新しい価値や意義を発見し、活用しようという意味です。同義語には、過去のことを参考にして将来の見通しを立てるという意味の「鑑応知来(往を鑑として来を知る)」、過去のことをよく知って未来を見通すという意味の「彰往察来(往をあきらかにして来を察す)」があります。でも、昔の夢を再びと願う「重温旧夢(ちょうおんきゅうむ)」に将来はありません。

 時代を超えた普遍的な知恵は後世の人々の問題解決にも応用できます。過去の経験が全くない新しい分野にチャレンジする際でも、それまでに蓄積した知識と経験に基づく類推が有効な場合が少なくありません。先人が多くの経験を積み重ねて完成した知恵の体系、原理や法則などは、次の世代に継承すべき大切な遺産です。コロンブスの卵のように、わかってしまえば簡単なことでも、新たに生み出すためには多くの試行錯誤と犠牲を伴う長い時間が必要だからです。

 私達は、新しいことにチャレンジする次の世代のために蓄積された先人の経験を伝えることは、年配者の大切な務めだと考えます。私達は先人の偉大な業績という巨人の肩を借り、長年の経験を通してささやかに何かを付け加えることができたつもりです。それを若い世代に活用していただきたい、つまり、「肩を貸したい」というのが私達の願いです。こうした思いを込めて「巨人の肩」をイメージしたロゴを考えました。ご賛同いただければ幸いです。

 
 
(C)Copyright 2013 Hiroshi Matsuda All right reserved.